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英文学科教授 遊佐典昭

2008.11.17

こんにちは。リレーエッセイ8番バッター英文学科の遊佐です(大ファンの松坂がいるボストンレッドソックスでいうと、バリテックです。おっといけない初端から脱線しちゃいました)。担当者から、研究のことを書いてくれとの要望でしたので、おつきあいください(以下は、仮想バリテックの口調です)。

 最近、いろいろな人から「専門は?」と問われますが、その答えは歳と共に変遷を経てきました。大学院修了直後は、英語の構造分析に関心があったので「英語学」と答えていました。その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)に客員研究員で滞在した頃から、興味の関心が英語のみならず、人間の言語能力(知識)の解明に移っていき「英語学・言語学」と答えていました。しかし、ちょっととまどうのは、言語学と答えるときまって、何カ国語しゃべれるのかという質問をうけることで、真面目に答えると長くなるので、いつも”slightly below one”(若干一カ国語に足らない)とパーティージョークで返すことにしています。人間は、今までに経験したことのない新しい文を創造的につくることができますが、この言語能力(言語を生み出すレシピ)の解明は、言語学の中心課題です。子供は、特別な訓練もうけないのに、まわりで話されている言語を獲得します。例えば、子供に、「お父さんは、お母さんに自分のスカートを見せた」と言ったら、すぐに笑います。なぜなら、「自分」が「お父さん」を指すことを無意識に知っているからです。この知識は、経験や常識に起因していないことは明らかです。物質である脳に心が宿り、複雑な言語知識を生み出していると考えると、言語を研究することは、人間の心を解明することに他なりません。さらに人間の言語(文法)が脳内にあると考えると、言語が自然界の物理法則にも従うことになります (ここでいう、「言語」は、脳に内蔵されている知識のことです)。人間言語がどの程度、言語特有の規則と、自然界の法則に従っているかを示すことが現代言語学の課題です。

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(尊敬するノーム・チョムスキーと、バートランド・ラッセルのポスターの前で。
チョムスキーに今回の写真掲載の許可を求めたら、ラッセルも喜んで許可するだろと、ウイットに富んだ彼らしい返信をくれました)

 

 

 

 

 

さらに、この4,5年は、脳が、どのようにして言語(母語だけでなく、第二言語、手話なども含めて)を生み出すかに関心を持っており、「専門は?」と問われたら「言語脳科学」と答えています。この分野は、従来の文系の言語学では不十分で、神経科学、心理学、遺伝学、自然言語処理などの統合領域であり、ここは想像していた以上に楽しくワクワクさせる研究対象が散らばっています。この中でも、日本人が外国語として英語を学ぶ際のメカニズムやその神経基盤に着目し、外国語は何歳で学び始めるのが最適化か、あるいは教授効果と言った問題を、言語理論と脳科学から探っています。
 現在は主に二つのプロジェクトを遂行しています。一つは、科学研究費の特定領域(脳の高次機能)の研究で、外国語としての英語の熟達度を脳機能計測で測定するものです。その研究成果が、先日新聞等で報道されました。もう一つは、科学技術振興機構の受託研究で幼稚園児の早期英語の獲得、および大学生を対象とした短期英語集中授業の学習効果の定着に関する研究を、東北大学と共同で行っています。近年、幼児英語教育や小学校英語教育の是非が論じられていますが、科学的データが不足しています。私たちのチームは、仙台市内の幼稚園の協力を得て、早期英語教育の効果、母語への影響、他の認知能力への影響を、行動実験や、脳計測(東北大チーム担当)で行っており、既に興味深い結果がでています(小学生の脳計測については、共同研究の首都大学チームが、大規模に行っています)。早期英語教育の実験は、その結果が社会的に大きな影響力を及ぼす可能性があるので、来年度以降、慎重に発表する予定です。また、大学生への英語の教授効果に関する研究は、脳の認知活動を血流量の変化で動的にとらえることが可能な機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)を用いることで、脳の変化(可塑性)を捉えようとしています。教授効果は、従来は文系の科目だった教育学、教育心理学が扱っていましたが、これを生物学的にとらえ直すことで脳科学との連携が可能となり、「学習する脳」が大きなテーマとなっています。脳科学を教育に応用することが可能な時代は、それ程遠くはないかもしれません。実際、先日参加したOECD (経済協力開発機構)の会議では、脳科学と教育がテーマとなっていました。ただし、脳科学の成果を鵜呑みにすることは危険であることは肝に銘じておく必要があります。

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脳の断面図 と 文理解時の脳活動

私の研究室には、本学の院生をはじめとして他大学の院生、若手研究者が5名リサーチアシスタント (RA)として所属し、外国語としての英語を子供、大人がどのように身につけるのかを、種々の実験を通して研究しています。恵まれたことに、種々のネットワークを通して、国内外の研究者と最先端の研究の相談ができる環境になっているので、的確な助言を得ることが可能です。また、研究成果を、中学生、高校生、一般の人に話をすることは楽しいことで、時間の許す限り社会に還元しています。
 学部生たちには、キュアリアスマインド (好奇心の強い人)になるような教育を心がけています。チョムスキーが「教育の99%は、学生を教材興味に対して興味を持たせることで、残り1パーセントが教授法に関係することである」と述べているとおり、学生の強靱な好奇心や潜在能力を引き出すのがつとめだと思っています。インプット中心のお勉強から、アウトプットを出す場数を積むことで、学生は自分で問題を設定するようになります。先週のセミナーでは、担当者が自主的に英語で発表し、終わったら全員で拍手でした。来週の担当者は誰??

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メタボへの配慮か、ケーキでなく和菓子を食べての、X歳のサプライズ誕生パーティー

最後に、私たちの研究や、教育に関心がありましたら、研究室にいつでもどうぞ。

 

 

 

 

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