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国際文化学科准教授 市野澤 潤平

2011.07.29

はじめまして。国際文化学科で「観光学」を担当している、市野澤潤平です。

【観光学とは】
 このエッセイを読むみなさんは、「観光学って何をするんだろう?」と疑問に思うかもしれません。多くの人々にとって、観光とは遊びであって、学問の対象ではないからです。
 宿泊・輸送・外食などを含めた広い意味での観光業は、21世紀最大の産業になると言われています。年間10億人近い人々が国境を越えて行き交っている現在、観光客を送り出し、お世話をし、もてなす人々の数もまた、莫大なものとなっています。多くの場合、観光客の世話をするのは、旅行代理店や航空会社、ホテルなどの営利企業です。観光客の数が増えたということは裏を返せば、観光がそれだけ大きなビジネスとなったということでもあるのです。

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「海のホテル」ダイビング・クルーズ船

 

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陸地から船で11時間の小さな岩礁です

観光学とは、文字通り「観光」について研究する学問です。上に述べた「観光=産業」という観点から考えれば、観光ビジネスをいかにうまく行うかという「観光の経営学」や、その産業構造がどうなっているかという「観光の経済学」が存在することは、容易に想像がつくでしょう。実際、観光の経営学や経済学は、観光学の大きな柱となっています。
 しかしながら、観光学は、ただそれだけにとどまるものではありません。巨大な経済現象である今日の観光は、文化や社会のあり方とも深く関わっています。私が授業のキーワードにしているのは、「観光現象の理解=現代社会を読み解くこと」です。資本主義・市場経済が卓越した現代社会では、誰もが商売のネタを血眼になって探しています。人々が興味を抱くこと、楽しいと思うこと、魅力に感じることは、それがなんであれすぐに観光商品とされていきます。
 ですから、観光現象を見れば、現代人の興味関心のあり方が一望できるといっても過言ではありません。また、様々な興味に突き動かされた人々が大量に移動し、交流するなかで、世界各地の文化が入り交じり、社会の構成員が流動していきます。そうした意味で、観光とは、現代の文化・社会の鏡であるとも言えるし、文化・社会を作り変えていく原動力となっているとも言えます。
 私が授業で扱うのは、そのような文化や社会の学としての観光学です。

【ワイルドライフ・ツーリズム】
 「ワイルドライフ・ツーリズム」という言葉をご存じですか?
おそらく、はじめて耳にするの人も多いのではないでしょうか。まだ日本語では一冊の本も出ていない、新しい言葉ですから。ワイルドライフ・ツーリズムとは、世界各地の野生動物を対象にした観光のことです。私は、そのなかでも特に、ダイビングやホエールウォッチングといった、海棲生物を対象とした観光を、主な研究テーマとしています。

 有史以前から続いてきた人間と魚や鯨との関わりは、基本的に、人間が魚を獲って食べること、すなわち漁業でした。しかしその一方で、〈獲る〉こととは全く別の魚との関わり方が、近年になって生じてきました――魚を〈観る〉利用法、海を舞台とするワイルドライフ・ツーリズムです。かつては、魚や鯨は、ただ〈獲る〉ことを通じてのみ人間の役に立つ資源だったわけですが、現在では、観光という文脈において、〈観る〉ことによっても、莫大な利益を生み出すようになっています。

ダイビングやホエールウォッチングが盛んになってきたのは20世紀後半以降、つい最近のことです。それがわずか半世紀ほどのあいだに、熱帯域のサンゴ礁の海では、観光・娯楽活動によって得られる経済効果が、漁業によって得られる経済効果を上回るようになりました。

 しかしそもそも、なぜ人間はわざわざ海に出かけて行ってまで、魚や鯨を〈観る〉のでしょう?
 何千年ものあいだ魚を〈獲る〉対象としてのみ扱ってきた人間が、突然〈観る〉ことに情熱を燃やすようになったのは、いかなる理由によるのでしょう? かつては漁場であった海の観光地への変貌は、海をめぐる人々の文化や生活に、どのような影響を与えているのでしょう?

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水中でひたすら待っているのは…

 

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でました!ジンベイザメ

現在、沖縄や東南アジア、太平洋の島々で、海を舞台に生きる人々の多くが、漁業から観光ビジネスへと転身しています。また、ダイビングやスノーケリングの事業を営むために、外部からの移住者が多数やってきたことで地域社会のあり方も様変わりし、漁業者と観光業者の対立、観光開発による自然破壊など、新たな問題も生じてきています。
 そのような、観光活動と文化・社会・経済との複雑な関わりを解きほぐしながら、海で魚を〈観る〉ことについて考えるのが、現在の私の研究です。

 宮城学院女子大学で学ぶ観光学は、観光現象が社会や文化のなかでいかにして生まれ、営まれ、影響していくのかについて、幅広く考察します。加えて、観光学は歴史の浅い学問分野ですから、未だに多くの未開拓領域が残されています。
 ですから、観光学を学ぶうえで重要なのは、教科書の内容をきっちりと覚え込む「お利口さ」よりもむしろ、既存の常識を打ち破って、新たな議論の糸口を見つけていく、創造性です。

 正解がないどころか、問題さえも未確定という、大学ならではの「学び」の楽しさを、皆さんにぜひ体感してもらいたいと思います。

 

 

 

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